「ITシステムを入れたのに、現場がまったく使ってくれない」 「入力はされているが、出てくる数字が信用できない」
こうした悩みを抱える企業は後を絶たない。システムを導入すれば自動的に業務が整うと思われがちだが、現実は真逆である。
「業務を整理し、現場と入力ルールを決め、正しいデータが入る仕組みを作って初めて、システムは役に立つ」
現在、私が展開している「WITS整理法」のベースとなったのは、ある金属加工の鉄工所での泥臭い支援である。なぜ開発者でありながら、プログラムを書く前に半年もの歳月をかけて「業務整理」を行ったのか。その思考のプロセスと、WITS整理法が生まれた原点について解説する。
なぜ「画面やプログラム」から始めなかったのか?
ご依頼は「受注から出荷・原価管理まで一連の流れをシステム化したい」という内容だった。しかし、私はすぐに画面設計やプログラミングに入ることはしなかった。
【なぜそう考えたのか?】
どれほど技術的に優れたシステムを作ろうと、「現場が入力しにくいもの」は現場で捨てられ、「経営に必要な数字が取れないもの」は単なる作業記録で終わるからだ。
システム構築の成功は「ツールの性能」ではない。
「現場が無理なく入力できること」と「経営に必要な数字が取れること」の2つが綺麗につながっているかで決まる。
だからこそ、最初の半年間はプログラムを1行も書かず、毎週の定例ミーティングで「今、誰が何をしていて、どの数字がどこで生まれているのか」を徹底的に整理することに費やした。
整理した内容は、すべて、定例ミーティングで報告して全員が理解できるように努めた。
なぜツールではなく「模造紙」だったのか?
業務フローの整理には、パソコンの綺麗な作図ツールではなく「大きな模造紙と紙の切り貼り」を使用した。
【なぜそう考えたのか?】
目的は「綺麗な図面を作ること」ではなく、「全員が当事者意識を持ち、自分の仕事の流れに納得すること」だったからである。
トップダウンで決められた業務フローは現場に定着しない。営業部長、工場長、作業長、事務担当者が膝を突き合わせ、手書きの書類を持ち寄り、「ここは営業だと思っていた」「いや、工場でやっている」といった認識のズレを模造紙の上で切り貼りしながら一つずつ潰していく。
この「全員で泥臭く確認するプロセス」こそが、現場に「自分たちのシステムだ」という意識(ボトムアップの土台)を生む唯一の方法だと考えた。
なぜ「工業簿記の配賦」と「現場の日報」を必死につないだのか?
工場を何度も歩いて作業している人々と「日報の書き方」を一緒に話し合い、さらに税理士さんと相談しながら工業簿記の配賦ルールをゼロから設計した。
【なぜそう考えたのか?】
「原価管理の数字は、会計ソフトの中ではなく、現場の職人の手元(作業日報)から生まれる」と確信していたからだ。
- 最初に人が段取りだけ行って、人が機械につきっきりで作業する時間(単価は2パターン)
- 最初の段取りだけで、あとは機械が自動で動く時間(単価は2パターン)
これらを曖昧にしたまま「それっぽい原価」を出しても、経営判断には使えない。「現場が無理なく書ける日報」と「正確な原価が計算できるロジック」を両立させて初めて、数字は経営の武器になる。
なぜ「稼働後の2週間」工場につきっきりになったのか?
半年かけて整理し、半年かけて開発したシステム。稼働初日から2週間、私は工場に張り付いた。
【なぜそう考えたのか?】
入ってくるデータが間違っていれば、どれほど正しい計算システムもゴミ箱になるからだ。
マスタデータの不備や現場の操作ミスは、稼働直後に必ず起きる。
その場で隣に立って教え、その日のうちにデータを修正する。
この「土台固めの2週間」を逃すと、単なる手書き日報で終わり、二度とシステムに戻ってこなくなる。
まとめ:WITS整理法が伝える「システム導入の真実」
この鉄工所で泥臭く「仕事の整理」をやり抜いた結果、これまで誰も気づかなかった「長年、上得意様だと思っていた取引先が、実は激しい赤字を生んでいた」という衝撃の事実が浮かび上がってきた。
システムを作ること自体は目的ではない。
- 会社の仕事を可視化して整理する
- 現場の知恵と入力を仕組み化する
- 正確な数字で会社の実態を見えるようにする
システムを選ぶ前に、まず「今の仕事」を整理する。これこそが、私がこの現場で学び、現在のWITS経営・WITS整理法へと繋がっている原点である。
次回『後編』で詳しく解説する。

