「ITを導入する前に考えよう」――却下されたセミナー企画を、13年後にもう一度出してみる

IT導入前に考えよう システム開発
IT導入前に考える

13年前、こんなセミナーを企画したことがある

パソコンの古いフォルダを整理していたら、2013年に作った企画書が出てきた。
企画と言ってもコンテンツそのものである。
タイトルは「ITを導入する前に考えよう!!〜ITベンダー経験者の提言〜」。
副題にある通り、システムを売る話ではなく、「システムを入れる前に、もっと考えておくことがあるのではないか」という内容だった。

当時はコンサル会社の社長にあっけなく却下され、日の目を見なかった企画である。
理由は明確には言われなかった。ただ、資料だけは残っていた。

最近、昔の資料を整理していて久しぶりに読み返してみると、もちろん古いところはある。
クラウドやTwitter、YouTube、スマートフォンが「最近のITトレンド」として書いていて
懐かしい感じだった。けれど、読み進めるうちに思った。
技術の話は古くなったけれど、システム導入のセオリーは何も変わっていない。

ITを導入すれば、会社がよくなるわけではない

ITベンダーの私は、システム導入が決まると、業務を分析し、業務フローを作り、無駄な作業を減らし、それをシステムに落としていく。
システムエンジニアとしては、ごく普通の仕事である。

営業には営業のシステム、経理には経理のシステム、生産には生産管理のシステム。
それぞれの部署が「これが使いやすい」と別々に導入していく会社がある。
それぞれは便利になっても、会社全体で見るとデータがつながらない。二重入力が発生する。
あるいは、別途連携用のシステムが必要になる。
後からデータを利用しようとしても、簡単には取り出せない。

現状業務を少し効率化するだけでは「部門的な改善」にしかならない。
13年前の資料である。しかし、この問題は今でもある。

経営者の考えだけでも、現場だけでもうまくいかない

もう一つ、当時かなり強く感じていたことがある。
資料には、**「経営陣だけの考えを聞いて構築したシステムは、現実的には運用できない」**と書いている。

現場の実際の仕事と合わなければ、結局使われなくなり、せっかく作ったシステムが放置されてしまうこともある。これは何度も経験した。

経営者には、「こういう数字を見たい」「こういう管理をしたい」「こういう会社にしたい」という考えがある。
一方、現場には、「実際にはこういう順番でやっている」「この場合だけ例外がある」「この帳票がないと困る」といった仕事の知恵がある。
どちらも必要である。

経営者の話だけを聞いて作ると、現場で動かない。現実と離れているからだ。
現場の今の仕事だけをそのままシステム化すると、今度は会社として何も変わらない。

私は当時、それを「経営・業務・ITを融合して考える」と表現していた。
資料でも、経営戦略に基づいて自社のビジネスモデルを再確認し、全社レベルで経営・業務・ITの融合を図るべきだとしている。

会社を経営してみて、自分にも足りないものがあったと気づいた

この資料を読み返して、一番面白かったのはここである。
当時の私は、ITベンダーだった自分が実際に会社を経営してみると、それまでの自分は経営についての知識を持っていなかったことに気づいた、と書いている。

経理ではない。経営である。

業務効率化やデータ分析は考えられる。
しかし、経営戦略との関係については、意識が足りなかったように思える。

システムエンジニアは、システムを作るプロである。だからといって、会社経営のプロではない。
反対に、経営者がシステムの専門家である必要もない。
だからこそ、その間をつなぐ作業が必要なのだと思う。

システムの前に、まず仕事を整理する

このセミナーで「IT導入前の準備」として挙げていたことがある。

  1. 社内で使われている帳票を洗い出す。
  2. 業務内容を確認し、業務フローを作る。
  3. 用語を統一する。
  4. 似たような書類があれば整理する。

資料でこのようなことを書いていた。

なんとも地味である。でも、私は今でも、この作業は大事だと思っている。

外部の人にも分かるように、自分たちの仕事を自分たちで説明できるような資料を作れば
作業効率も良いし、コストも安く済む。
新人が入ってきた時にも説明しやすくなるし、退職などの際に引き継ぎ作業にも使える。
のちに、「知的資産経営」を学んだ際に「自社の強み」「Sweet Spot」を知る際に利用可能
であることもわかった。

ITは万能ではなく、あくまで道具

資料の中に、今でもそのまま使いたい言葉がある。
「ITは、万能ではなく、道具に過ぎない。」

そして、システムは導入したら終わりではなく、問題点や投資効果を見ながら改修し、運用を改善しながら育てていくものだとも書いている。

これは生成AIでも同じだろう。
新しいシステムでも、クラウドでも、AIでも、「導入したら何とかなる」わけではない。

何のために使うのか。誰が使うのか。どの仕事に使うのか。その結果、何を良くしたいのか。
こちらの方が先に検討すべき事項である。

パッケージか、オリジナルか、という話でもない

昔は、「パッケージソフトがいいのか」「自社専用システムを作った方がいいのか」という相談もよくあった。
私はこの資料で、どちらか一方に決める必要はないと書いていた。

パッケージとオリジナルを組み合わせる。
入力部分だけを作り、計算部分は既存のパッケージに任せる。
部門だけで完結するものなら、小さなデータベースソフトを使う。
要するに、柔軟に考えようということである。

資料でも、カード型データベースソフト、SaaS、パッケージとオリジナルソフトの組み合わせなど、状況に応じて選択肢を持つことを勧めていた。

今ならSaaSやクラウドサービスも増え、選択肢は当時よりはるかに多くなっている。
だからこそ、「何を入れるか」から考えるのではなく、自分たちは何をしたいのか、そこから考えた方がよい。

これは13年前より、今の方が重要になっているかもしれない。

却下された企画も、無駄ではなかった

経営者の考えだけでは駄目。
現場の仕事だけを見ても駄目。
ITだけでも駄目。
まず会社の仕事を整理し、何をしたいのかを考え、その上で道具を選ぶ。

当時は、それをうまく一つの言葉にはできていなかった。
今なら、WITSという整理の仕方もある。

昔の資料を読み返して感じたのは、新しい考えを突然思いついたというより、長い間仕事をしながら考えてきたことが、少しずつ形になってきたのかもしれないということである。

十数年遅れではあるが、形を変えて出してみることにした。

ITを導入する前に、まず自分たちの会社と仕事を整理する。
2013年に言いたかったことは、結局そこだったのだと思う。

。

コメント

タイトルとURLをコピーしました