ロジックを突き詰め、コンテンツをぎっしり詰め込んだ過去の5Sセミナー。
受講者の顔は暗く、完全に「聞かされている」状態だった。
かと思えば、最近受けた講座は絵を描く体験型で盛り上がったものの、翌日から自分は仕事で何を取り入れたらよいかさっぱりわからなかった。
過去の「詰め込みすぎた自分のセミナー」と受講者として体験した「楽しさだけで終わるワークが多いセミナー」。
二つの体験を経たからこそ分かる。現場を本当に動かすのは、知識の量でもノリの良さでもない。
受講者が「自分ごと」として腹落ちし、翌朝から動ける「次の行動」が手元に残るかどうかだ。
ぎっしり詰まったスライドと、暗い受講者の顔
数年前、製造業や事務部門向けに「5S活動」をテーマにしたセミナーを何度か担当していたことがある。
手元に残っていた当時の資料を久しぶりに読み返してみた。
コンテンツも企画も全部自前。かなり時間も費やした。
タイトルは「事務部門の5Sについて学ぶ」「仕事の5Sについて学ぶ」。
何度か形を変えながら実施したため資料は4本あるが、組み立ては共通して次のような流れだった。
- なぜ5Sを学び、実践していくのか
- 業務効率化のために、ムダ・ムリ・ムラを知る
- 「ハ・タ・ラ・キ・ヤスク」という語呂合わせで5Sの意義を整理する
(こちらは、リコーさんで生まれた5Sカイゼン活動の語呂合わせが起源とされている)- ハやく、速く → 業務時間の短縮
- タだし、正確に → ミスをなくす
- ラクに(仕事をする) → 業務の効率化
- キれいに(仕事をする) → 品質向上
- ヤスク(安く仕事をする) → コスト削減
- 自分の仕事に「いくらお金がかかっているか」を、具体的な原価計算で可視化する
- モノの5S、仕事の5Sをそれぞれ学ぶ
- 自分の部門の5S内容を企画し、プロジェクト体制図、課題管理表、スケジュール表まで落とし込む
私は、製造系だからコストは常に意識しているけれど、事務系の仕事の方は自分の一つ一つの仕事に対して掛かるコストに関してはそれほど意識されていないと思われる。
そこで力を入れたのは、コストの「見える化」を意識してもらえるように簡単な事例だけど
「工場では、販売価格100,000円の製品に対して、材料代・削る工程・組み立て工程を合わせると70,000円かかる」といった例を出し、感覚ではなく数字で語る作りにして
「自分の仕事にいくらお金がかかっているか、考えたことがありますか?」と
受講者に問いかけるところから始めたのだ。
ワークも用意し、飽きない工夫も凝らした。今読み返しても、内容はかなり練ったつもりである。
さらに、5S活動を「やって終わり」にしない仕組みも用意した。
プロジェクト体制図で役割と責任を明確にし、課題管理表で
「分類・課題・解決策・対応状況・ステータス・完了予定日」を追い、
スケジュール表で数か月先までのタスクを可視化する。
研修で終わらせず、現場での実践と継続活動につなげる完璧な設計のつもりだった。
だが、当時のスライドを見返してハッとした。画面全体に文字と表がぎっしりと詰まっているのだ。
伝えたいことは明確なのだが、見せ方は完全に「一方的な研修」の顔をしていた。
いつものように詰め込みすぎである。
受講者からすれば、あまりの情報量に圧倒され、「聞かされている」感覚になっていたはずだ。
自分の中でロジックを追い求めた結果、詰め込みすぎてしまったのだと思う。
中身の濃さと、受け取る側の体験。この2つは、実は全く別の話なのだと痛感した。
正直、当時の受講者はあまり楽しそうではなかった。
「楽しかった」の先に、何が残るのか
一方で、これとは全く逆の体験もした。最近参加した、ある有料講座でのことだ。
そこでは絵を使ったワークや、歴史を書いた記事を読んで理解したことを発表するといった、
体験型のグループワークが中心だった。
参加者を飽きさせない工夫があり、場も盛り上がっていた。
しかし、SEとしての実務感覚が染み付いている私は、どこか居心地の悪さを覚えていた。
楽しませる工夫はあるものの、終わった後に「あれは何だったんだろう」という感想が残ったのだ。
覚えていたのは「何かを作った」という事実くらいだった。
ワークを終えた後、何を持ち帰り、翌日からの行動にどうつなげるのか。
体験そのものは印象に残っても、それを自分の現場仕事にどう生かすのかが、どうしてもイメージできなかった。
「参加しやすさ」や「楽しさ」はもちろん大切だ。
しかし、最後に何が現場に残るのかまで設計されていなければ意味がないのだと、改めて考えさせられた。
現場を動かす「本当の研修」の条件
必要なのは、ロジカルに整理されたコンテンツと、受け取る側が飽きずに腹落ちできる伝え方の両立だ。そして最後に、次の行動につながる成果物が手元に残ることである。
これは経営支援やコンサルティングの現場でも、全く同じことが言える。
立派なフレームワークや診断シートを提示しても、経営者自身が「自分ごと」として腹落ちしなければ絵に描いた餅で終わる。
逆に、対話や体験がどれだけ盛り上がっても、最後に手元に残る成果物がなければ時間をかけた意味が薄れてしまう。
1つひとつの事実に真摯に向き合いながら、過去の自分の失敗スライドと最近の気づきを噛み締めている。
現場を本当に動かすための学びとは何なのか、その答えをこれからも追い求めていきたい。

